東京高等裁判所 昭和58年(行コ)86号 判決 1984年8月30日
控訴人(被告) 神奈川県地方労働委員会
補助参加人 全日本電機機器労働組合連合会池上通信機労働組合
被控訴人(原告) 池上通信機株式会社
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決を求める。
二 被控訴人
主文第一項と同旨の判決を求める。
第二当事者の主張
当事者双方の主張は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
第三証拠関係<省略>
理由
一 当裁判所も、本件命令(主文第一項及び第二項)を違法としてその取消しを求める被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものであると判断するが、その理由は、原判決の理由三及び四を次のとおり改めるほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
三 本来企業施設は企業がその企業目的を達成するためのものであつて、労働組合又は組合員であるからといつて、使用者の許諾なしに当然に企業施設を利用する権限を有するものではないし、使用者において労働組合又は組合員が組合活動のために企業施設を使用するのを受忍すべき義務を負うというものではないことはいうまでもなく、このことは、当該組合がいわゆる企業内組合であつて、労働組合又は組合員において企業施設を組合活動のために使用する必要性がいかに大であつても、いささかも変わるところがない。このように解すべきことは、労働組合法が使用者の労働組合に対する経費援助等を不当労働行為として禁止し、ただ最小限の広さの事務所の供与等を例外的に許容しているに過ぎない(同法第七条第三号)ところの法の趣旨に適合する当然のことである。労働組合又は組合員による企業施設の利用関係は、この点において、企業が労働安全衛生法第七〇条の規定に基づいて労働者の体育活動、レクリエーシヨンその他の活動のために企業施設の使用を認める場合とは、基本的に性格を異にするものといわなければならない。
そして、使用者は、企業目的に適合するように従業員の企業施設の利用を職場規律として確立する一方、企業目的の達成に支障を生じさせ秩序を乱す従業員の企業施設の使用行為を禁止又は制限しあるいは違反者を就業規則等違反を理由として懲戒処分に付するなどにより、企業目的にそわない施設使用を企業秩序違背として規制し排除することができるのはいうまでもないところである。
四 本件においても、以上に述べたところと別異に解すべき事情はなんら見当たらず、組合が組合員集会や組合大会の開催その他の組合活動のために会社の一般的又は個別的な許諾を得ないで当然に会社の従業員食堂を使用し得るものと解すべき理由はない。しかるに、組合は、その結成以来一貫して、組合活動のために会社施設を自由に使用できるのは組合の当然の権利であるとの基本的な前提に立ち、これを会社構内における組合活動の自由と称して会社にその承認を求め続け、会社の許諾を得ないままに会社の従業員食堂を組合員集会等のために多数回にわたつて使用し続け、この間、会社の許諾を得ることなく組合又は組合員が組合活動のために会社施設を使用するのは違法であり、先ず団体交渉等を通じて組合活動のための会社施設の利用について基本的な合意を締結するのが先決であるとして組合又は組合員による従業員食堂の無許諾使用を阻止しようとした会社と再三にわたつて衝突を繰り返すなどしてきたものである。また、先に認定したような経緯に鑑みると、組合においては、従業員食堂等の会社施設の組合活動のための使用につき、会社と真摯に協議を尽くして合意に達しようとする姿勢に欠けていたものといわざるを得ない。
そして、組合が右のような不当な見解に固執して従業員食堂の使用につき会社と真摯に協議を尽くそうとせず、かえつて会社の許諾を得ないままに会社の阻止を実力で排除してこれを使用し続けるという挙にでるという態度を採り続けたものである以上、会社としても、団体交渉等を通じて組合活動のための会社施設の利用について基本的な合意を締結するのが先決であるとして、組合がその後個別的にした従業員食堂の使用申し入れに対して許諾を与えなかつたのも、やむを得ない措置というべきであつて、これを権利の濫用ということはできないし、会社が組合員の入構を阻止したり組合員集会の中止命令を発するなどの措置を採つて、会社の許諾を得ないまま従業員食堂において開催されようとする組合員集会等を中止させようとし、あるいは組合が無許諾で従業員食堂を組合活動のために使用した場合に組合又はその責任者の責任を追及し処分の警告を発するなどしたのは、先にみたようないわゆる施設管理権の正当な行使として十分是認することができるところであつて、これら会社の採つた一連の行動が組合に対する不当労働行為に該当するものということはできない。
したがつて、会社の措置が組合に対する不当労働行為に該当するものとしてなされた本件命令(主文第一項及び第二項)は違法というべきであつて、その取消しを求める被控訴人の本訴請求を認容した原判決は正当である。
二 よつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担については行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条及び第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 香川保一 越山安久 村上敬一)
原審判決の主文、事実及び理由
主文
一 被告が、補助参加人を申立人、原告を被申立人とする神労委昭和五五年(不)第四号不当労働行為救済申立事件について、昭和五六年七月二七日付で、なした命令中、主文第一、二項を取消す。
二 訴訟費用は原告と被告との間に生じた分は被告の、参加によつて生じた分は補助参加人の各負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一項と同旨
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 補助参加人(以下「組合」という。)は、昭和五五年三月八日被告に対し、原告(以下「会社」という。)を被申立人として不当労働行為救済の申立てをなしたところ、被告は昭和五六年七月二七日付で別紙命令書記載の救済命令(以下「本件命令」という。)を発した。
2 しかしながら、本件命令の主文第一、二項には次のとおり事実認定及び法律上の判断に誤りがあり違法であるから、その取消を求める。すなわち、
(一) (本件紛争の経緯)
(1) 元来会社は組合の会社施設使用を全く認めないというのではなく、原則として組合は会社の施設使用権を有しないとの前提をとりつつも、施設使用の具体的場合について組合と協議し、合意のうえ施設使用を許可していく方針であつた。そこで会社は組合と昭和四八年一二月二七日組合に対する会社施設及び掲示板の貸与に関し協議に入つたところ、同四九年三月五日掲示板貸与についてのみ合意が成立した。しかし食堂使用の問題については、会社は組合が行う年四回程度の定期大会及び臨時大会には食堂の使用を認めてもよい旨提案したが、組合は会社の食堂を使用するのは組合の権利であつて組合大会の場合にだけ食堂使用が認められるのは承服し難いとして協議に応じず実力を以つて会社の支配を排し食堂の無断使用を繰り返し会社からの度々の警告にも拘らずこれを改めようとはしない。
(2) また、組合は前記の掲示板貸与協定の際掲示板以外の場所に掲示物を貼付しない旨合意されているにも拘らず、協定成立後数か月を経ずして掲示板以外の会社施設に無断で多数のビラを貼付し、会社が協定違反である旨申し入れても、ビラは貼付物ではないなどとうそぶいてその後も引き続き貸与掲示板以外の会社施設にビラを貼付し続けている。さらに組合は、昭和四九年以降同五一年に至るまでの間、ストライキに際しピケを張つて実力で会社の業務を妨害したばかりかドアを破壊し管理職にある者に対し暴行を加え負傷させるなど正当な組合活動を逸脱した不法な行為を数限りなく繰り返しながらこれらの行為をすべて正当な組合活動であると主張してやまない。
(3) 会社としては組合の以上のような行為をみるとき、組合に対する不信感は容易に払拭できないところであつて、組合と食堂使用につき協定を結んでも違反するのではないかとの危惧は極めて大きく現状のような組合に対し会社の施設である食堂の使用を許すことは困難である。
なお、会社は社員親睦会、写真部、卓球部等のサークル活動に食堂の使用を許しているけれども、これは労働安全衛生法七〇条が従業員のレクリエーシヨンには会社施設を利用させるべきことを定めていることに基づき、その義務の履行として行つているものである。
(二) (事実認定の誤り)
(1) ところで、本件命令は「組合は、春闘活動の場として、昭和四九年三月一一日、<1>ハンドマイクは持ちこまない……等の条件の下に、食堂使用許可願を提出していたが、同年三月一三日の事務折衝時は会社は組合との食堂使用に関する協定の不存在……を理由にこれを許可しなかつた。」とするが、組合の三月一一日付書面は「食堂使用許可願」ではなく「会社構内施設利用に付いての協議開催申入書」である。会社は組合の申入れどおり協議してゆくつもりであり、協議が整うまでの間の暫定措置として食堂に代る代替場所を提供したのである。
(2) さらに、本件命令は「その後、更に組合は団体交渉を要求したが会社はこれも拒絶し、そのまま春闘に突入した。」とするけれども事実は全く逆である。すなわち前述のように会社は組合に対し大会の際における食堂の使用を認めることを提案したのに、組合は右提案を一顧だにせず拒絶したうえ、その後団体交渉はもとより事務折衝にすら応じようとしなかつたのである。
(3) また、本件命令は「会社は、昭和四八年一一月一二日付け社長名の申入書をもつて『組合活動の自由とは労働契約上の就業時間外及び会社の施設を使用しない場合に自由ということであつて、たとえ正当な理由によるものであつても就業時間中は勿論、就業時間外であつても会社施設構内の使用はできません。』旨を回答しており、……『当初の方針どおり一切貸す意思がない』旨の回答をして今日に至つている。」とする。しかしながら、右文書の趣旨は、「組合活動は就業時間外であつても会社の許可がなければ会社施設の使用はできない。」という当然のことを述べたにすぎず、一切貸す意思がないなどという意味ではないのである。
(三) (法律上の判断の誤り)
労働組合による企業の物的施設利用の問題については、我が国の労働組合の多くが企業内組合であり、組合活動の場を企業内施設に求める必要性が大であるとしても、そのことから直ちに会社施設を許可なく使用する権原があるとすることはできないことは最高裁判所第三小法廷昭和五四年一〇月三〇日判決(民集三三巻六号六四七頁、以下「最高裁判決」という。)において示すところである。しかるに被告は最高裁判決を全く無視して権利の濫用に該当する事実に関し何ら主張、立証がなされていないのに拘らず単に組合において会社の物的施設を利用する必要性が大きいというだけで会社に対し「組合から食堂使用許可の申請があつたときは業務上著しい支障がある等合理的な理由のない限りこれを拒否してはならない。」と命じたものであつて、右命令が違法であることは明らかである。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2は争う。
被告が本件命令において不当労働行為を認定した理由は別紙命令書記載のとおりであり、同記載の事実認定及び法律上の判断は正当であるから、本件命令は適法である。
三 補助参加人の主張
1 (食堂使用妨害行為の不当労働行為性)
(一) 組合は、昭和四八年一一月一二日会社との間に食堂使用について事前届出をするとの合意が成立し以来就業時間外の食堂使用の都度事前に許可願を提出してきており、団体交渉等の際にも組合集会のための食堂使用を許可するよう要求し然るべき協定を締結するよう求めてきている。特に同四九年三月一一日の事務折衝の際には、ハンドマイクは持ちこまない等の具体的な使用条件を示して食堂使用の許可を求めた。これに対し会社は、組合には食堂を含む会社施設の利用を認めないとの態度を終始とり続け、組合の許可願をすべて却下してきているばかりでなく、食堂使用について具体的な話し合いにさえ応じようとしないのである。
(二) 企業内組合にとつて、団体交渉等を通じて組合の目的を達成するためには、企業という場における活動が重要な役割を果すことはいうまでもない。組合が組合集会のため特に川崎工場の食堂使用を必要とする理由は、<1>川崎、池上両工場に分散した組合員の合同集会を開くためには、組合の本拠地であり多数の組合員がいる川崎工場に集合する必要があること、<2>就業時間外にかつ組合の都合のよい日時に組合員が集合するため会社以外で場所を確保することは困難であるうえ費用もかかるものであり、食堂使用は組合の極めて切実な要求である。一方会社としては、就業時間外であれば事業の遂行に格別の支障はなく、施設の利用態様についても組合が使用条件を提案しているとおり施設本来の目的を損わず十分に対処し得るものである。
(三) 会社は食堂使用を許可しない理由として、<1>組合が協定違反を行つていること、<2>組合が食堂使用を強引に実施して会社との間に様々なトラブルを生じさせていることを挙げている。
しかしながら、右<1>の点については、「掲示板貸与に関する協定書」にいう「掲示」とは組合が組合員に向けて通知、報告するものに限られ、闘争時における会社に対するビラ等はその目的、通知の対象等において異なるから右「掲示」には含まれないと解すべきである。また右<2>の点についても、食堂使用について会社と組合との間にトラブルがあつたのは事実であるが、これは会社が不当にも組合に食堂使用を認めないことにより生じたものである。
(四) 以上のように会社は格別の理由もないのにことさら組合に食堂使用を認めず組合の集会を妨害するのは、明らかに組合の存在を嫌悪し施設管理権の名の下に組合に対する支配介入の意図を有しているからに他ならない。会社の不当労働行為意思は次の事実からも明白である。
(1) 会社は、昭和四八年一一月一〇日食堂使用について妨害をしないと約束しておきながら、翌一一日社長以下七〇名の職制らによる労働組合対策会議を開催し、翌一二日から食堂使用の妨害を開始している。
(2) 会社は昭和四九年の春闘時における組合との事務折衝の際、組合に対し年四回程度の組合大会のための食堂使用を認めるとの譲歩案を示したものの現実には組合の度重なる使用許可願に対して具体的な業務上の障害理由を付すことなく、また付す必要はないとして組合の食堂使用を全く認めようとしない。会社のこの態度は施設管理権を絶対的なものとし組合に食堂使用を許すか否かは会社の意思次第であることを基本にして、組合がこれを承認しない限り組合に対し食堂使用を認めず、使用についての話し合いにも応じないとするものであり、これが不当なことは明らかである。
(3) 会社は、社員親睦会、写真部、卓球部等がサークル活動に食堂を使用することを認めている。その理由として会社は、労働安全衛生法七〇条の規定を挙げるが、右規定は使用者をして従業員に対し食堂を使用させる義務を負担させるものではないから、右法条を、サークル活動に食堂の使用を認め、組合活動に対してこれを認めないことの根拠とすることはできない。会社がサークル活動等に食堂使用を認めながら組合活動のための使用を認めないのは、会社が組合を嫌悪し組合に対し支配介入する意図のあることの顕れである。
2 (本件命令と最高裁判決について)
(一) 最高裁判決は、企業施設内における組合活動は使用者の許諾のない限り原則として組合活動としての正当性が認められないと判示しているけれども、右判決は憲法二八条及び労働組合法七条の趣旨を曲解し、著しくその解釈を誤つた不当な判決であり、安易にその論旨を採るべきではない。
(二) また、最高裁判決は直接に本件の事実関係にあてはまらない事例であり、右判決の存在することは会社の本件行為を不当労働行為と認定する妨げとはならない。すなわち、右判決は公労法の適用を受ける国鉄労働組合の組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の物的施設にビラを貼付した行為が正当な組合活動にあたらないとされ、これらの行為者に対する戒告処分が有効と判断された事例である。しかるに本件は民間の労使関係の事案であり、組合活動のために物的施設を利用することを使用者が不許可としたことの不当性もさることながら、不許可のまま物的施設を利用して組合活動が敢行されたことに対する使用者の妨害行為の不当性、すなわち会社のとつた集会妨害行為が対抗行為といえるかどうか、対抗行為であるとしても合理的かつ相当な範囲内のものかが問題とされている事案であつて、両者は事案を異にしている。
(三) 仮に最高裁判決の論理が本件にもあてはまるとしても、会社の本件行為は施設管理権の濫用であつて不当労働行為のそしりを免れない。右判決自体も「労働組合又は組合員らに対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合」には、使用者の許諾を得ないで行われる組合活動も正当性を失わないことを示唆しているところ、本件の場合、組合の側には川崎工場の食堂を組合集会に使用する切実な必要性があるのに対し、会社の側には食堂利用を許容しても作業秩序や職場秩序に何の支障も生ずるおそれのないことは明らかである。このような事情の下において、会社が頑なに組合に対して川崎工場の食堂利用を拒否することは施設管理権の濫用であり、かかる権利濫用をあえてしてまでも会社が組合の企業施設利用を嫌う真意は、組合を嫌悪しこれが弱体化を熱望するところにあるといわざるを得ない。
すなわち、最高裁判決の論理に従つても本件会社の組合に対する集会妨害行為は不当労働行為に該当するものといわなければならない。
第三証拠関係<省略>
理由
一 請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 原本の存在及び成立ともに争いがない乙第一〇ないし第二五号証、第四三ないし第五三号証、第五九ないし第六二号証、第六三号証の一ないし四、第六八号証の一ないし四、第六九号証、第七〇号証の一ないし七、同号証の八の一、二、同号証の九ないし一八、同号証の一九の一、二、同号証の二〇ないし二三、第七一ないし第七八号証、第八七号証、第九〇号証の一ないし七、第九一号証、第九三号証、成立に争いがない乙第九六ないし第一〇五号証、証人前田哲男及び同粟生正敏(後記措信しない部分を除く。)の各証言を総合すれば次の事実が認められる。すなわち、
1 会社は通信機器及び放送装置の製造販売を業とし、東京都大田区池上に本社及び工場を、川崎、藤沢、水戸、宇都宮に工場を各有する従業員約一三〇〇名の株式会社であり、組合は昭和四八年一一月九日会社の従業員中約三七〇名をもつて結成された労働組合であつて、現在の組合員数は約八五名である。
2 昭和四八年一一月一〇日、組合の沢口進執行委員長らは当時川崎にあつた本社に千葉朝夫総務部長らを訪ね、組合の結成を通知するとともに、組合事務所、組合掲示板の貸与等を求める要求書を提出したが、当日は斉藤公正社長が海外出張中であつたため右要求についての折衝を行うことなく、千葉総務部長が右要求書を預かることとなつた。
3 組合は、同月一一日午後二時ころから約一時間、会社に使用許可を求めることなく川崎工場の従業員食堂において組合員約三〇名を集めて集会を開いた。一方急拠帰国した斉藤社長は同日午後一時から鶴見の総持寺に会社の職制約七〇名を集めて労働組合結成に対する会社としての対応策を協議した。
4 翌一二日朝、組合は組合員に対し、一一月一〇日に行われた会社との団体交渉において暫定措置として組合が会議室、応接室、食堂を使用しても会社は妨害しない旨確認されたこと、一二日午後五時三〇分に全員各工場の食堂に集合すること等を記載したビラを配布した。これに対し会社は右のような合意がなされていないとして、「組合活動の自由とは労働契約上の就業時間外及び会社の施設を使用しない場合に自由であるということであつてたとえ正当な理由によるものであつても就業時間中は勿論、就業時間外であつても会社施設の使用はできません。」との申入書を組合に交付した。
5 組合は、同日午後五時三〇分ころ、池上工場の従業員食堂において会社に無断で集会を開こうとした。これに対し会社側は許可がない以上食堂を使用してはいけないとして職制を動員してこれを阻止したため小競り合いとなつた。而して同日午後一一時ころに至り、組合側代表と会社側代表とが会合し<1>団体交渉の期日を取り決めること、<2>会社は組合に食堂を使用させること、<3>本日の混乱に関し組合員を処分しないこと、<4>会社は不当労働行為をしないことの組合提出の案件について協議したが、明確な結論が出ないまま翌一三日午前二時三〇分過ぎころ交渉は打ち切られた。
6 ところが組合は、同月一五日午後五時三〇分ころより同八時五〇分ころまでの間会社から使用不許可を申し渡されていたにも拘らず会社の制止を排除して川崎工場内三階食堂に七五名の組合員を集め集会を開くとともに、構内放送設備スピーカーの音量を勝手にしぼるなどの行為をした。このため会社は同月一六日付書面を以つて川崎工場長の名で組合副執行委員長宛に厳重警告を発した。
7 会社は同月二四日、社長以下幹部四名が組合執行部三役と会い、さらに同月二六日、二七日の両日には三六協定に関する事務折衝がなされた。そして会社と組合は年末一時金問題解決のため同年一二月四日第一回団体交渉を、同月一三日第二回団体交渉を行い、年末一時金問題は同日妥結した。
8 ところで前記二七日の事務折衝において、組合から会社に対し<1>労働協約の締結、<2>組合事務所、掲示板の貸与、<3>組合活動の自由の保障の三点について要求が出されたのであるが、右案件について会社と組合は同四九年一月二三日に第三回団体交渉を、次いで同年二月七日第四回団体交渉を行つた。その結果前記組合要求<2>の組合事務所、掲示板の貸与については合意に達する見込みがついたので細部に関し事務折衝を行うこととなり、同<1>及び同<3>については双方の主張が平行線をたどつたため交渉継続ということになつた。そして同月一三日及び同月二八日の事務所衝において掲示板貸与の件について細部に関し交渉が行われ、同年三月五日の第五回団体交渉において掲示板貸与の件について会社と組合は合意に達し、さらに同月一一日の事務折衝において掲示板使用手続に関する取決めがなされた結果、翌一二日会社と組合間で掲示板貸与に関する協定書の作成をみた。
9 一方、組合は、同月一一日、会社に対し昭和四九年春闘向け職場討議の会場として同月一五日、一九日、二〇日及び二二日に川崎工場並びに池上工場の食堂を、同月二三日に臨時大会の会場として池上工場の食堂をそれぞれ使用したい旨書面で申し入れた。もつとも右申入書には使用上の注意事項として<1>ハンドマイクは持ち込まない、<2>人数は守衛所に連絡する、<3>タイムカードは五時三〇分までに必ず打刻する、<4>使用日の組合責任者を明確にする、<5>会社は討議に介入しない等が付記されていた。会社は右申入れを受けて同月一三日食堂使用の件について組合と事務折衝を行つた。席上組合は会社の設備は組合活動のため組合が自由に使用できるものであると主張したのに対し、会社はこれを否定したうえ年四回位の組合の定期大会及び臨時大会に食堂を使用させてもよい旨の見解を示すとともに、現に差し迫つた春闘時における組合大会等の会場としては、合意ができていない以上食堂使用を認めることができないので、暫定的に外部の会場、つまり三月一五日は徳持会館、同月一九日は産業文化会館、同月二〇日は徳持会館、同月二二日は貝塚会館、同月二三日は産業文化会館を会社が使用料を負担して組合に提供するとの提案をした。
10 組合は会社の食堂使用の問題は暫く措き当面差し迫つた同月二三日の臨時大会は会社がその費用負担において借り受けた産業文化会館において開催することとし、同日同会館において大会を挙行した。
11 しかるに組合は、その後食堂使用の問題について会社に対し協議の申入れをすることなくそのまま放置し同年四月五日ころ川崎工場の食堂を会社の許可を得ずに使用しようとしてこれを阻止しようとした伊藤工場次長、矢野部長、笹岡課長らと小競り合いとなり、さらに屋上へ出ようとした組合員が右三名を階段に転倒させそれぞれ通院加療一〇日間を要する傷害を負わせたのを始めとして、その後も会社の許可を得ずに川崎工場あるいは池上工場の食堂を使用していたがその回数は、同四九年四四回、同五〇年二七回、同五一年一一回に及んだ。
12 組合は、その後、会社に対する昭和五三年六月二〇日付夏期一時金要求書及び同年一一月九日付要求書において、会社構内における組合活動の自由を認めよとの極めて概括的な要求を掲げたものの、食堂使用の問題を具体的な項目として掲げ会社に対し協議を求めることはせず、昭和五四年以降も以下のような会社施設の無断使用を繰り返した。すなわち
(一) 組合は昭和五四年三月二八日午後五時三〇分ころ会社から食堂使用許可の申入れを拒否されたにも拘らず川崎工場食堂において全川崎労働組合協議会清水事務局次長の講演会を開催しようとしたが、会社の阻止行動により組合は工場内タイムレコーダー前で集会を行つて散会した。
(二) 組合は同年四月一一日午後五時三〇分ころ会社から食堂使用許可の申入れを拒否されたにも拘らず川崎工場食堂において川崎工場及び池上工場所属の組合員の合同集会を開催しようとしたが、会社が工場通用口のアコーデオンドア及び工場内通路にある鉄製扉を通行人が一人程度通行できる程度に閉じたうえ職制を配置して組合員の食堂立入りを阻止したためもみ合いとなり、その際右鉄製扉がはずれたりして危険な状態となつたため、結局組合はタイムレコーダー前付近において集会を行つて散会した。
(三) 組合は同月一九日午後五時三〇分ころ会社から食堂使用許可の申し入れを拒否されたにも拘らず川崎工場食堂において川崎工場及び池上工場所属の組合員の合同集会を開催しようとしたが、会社が工場通用口のアコーデオンドアを閉めたため、工場内の組合員と工場外の組合員とが分断された状態となり、組合は、午後九時ころにタイムレコーダー前付近において集会を行つて散会した。
(四) 組合は同月二七日午後五時三〇分ころ会社から食堂使用許可の申入れを拒否されたにも拘らず川崎工場食堂において川崎工場及び池上工場所属の組合員の合同集会を開催しようとしたが、会社が工場通用口のアコーデオンドアを閉鎖したため、工場内の組合員は食堂で集会を開き、工場外の組合員は正門玄関に赴きそこで会社職制らと小競り合いとなり、結局午後一一時ころタイムレコーダー前付近において合同集会を行つて散会した。
なお、組合の副執行委員長であり、会社の川崎工場に勤務する鬼柳香月は、同日午後三時から社外で行われた電機労連の幹事会議に半日有給休暇をとつて出席し、午後五時五分ころ前記組合合同集会に出席するため川崎工場に入ろうとしたところ、松沢総務課長らから入構を拒否されたにも拘らずこれを無視して工場内に立入つたため、会社は同年五月七日付で右鬼柳に対し「川崎工場内従業員食堂における組合集会に参加したことは服務規律違反であるから今後規律を乱すことのないよう警告する」旨の文書を交付した。
13 これに対し会社は会社の使用許可を得ることなく組合もしくは組合員が組合活動のため会社の施設を使用することは違法であるとし、職制による阻止、説得、組合に対する事後の警告等を行つて組合員らによる無断使用を中止させるべく努力を重ねた。
以上の事実を認めることができる。右認定に反する粟生敏正の証言部分は前掲各証拠と対比してたやすく措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
三 一般に企業に雇用されている労働者は企業施設内に設置されている機械、設備等を使用して労務を提供する業務を負つていることから、企業施設内に立入りこれら機械、設備等を使用することができることはいうまでもないが、さらに進んで生産設備以外の会社の物的施設の使用をもあらかじめ許容されているとみられる場合が少なくない。しかしながら、右の許容は、特段の合意があるのでない限り、雇用契約の趣旨に従つて労務を提供するために必要な範囲において、かつ、定められた企業秩序に服する態様において使用するという限度にとどまるものであり、労働者に対し右の範囲を超え右と異なる態様においてそれを使用し得る権原を付与するものということはできない。また、労働組合が当然に企業の物的施設を使用する権利を保障されていると解すべき理由はないのであるから、労働組合又は組合員であるからといつて使用者の許諾なしに右物的施設を使用する権原をもつているということはできない。もつとも企業に雇用される労働者のみをもつて組織されるいわゆる企業内組合の場合にあつては、当該企業の物的施設内をその活動の主要な場とすることが極めて便宜であるから、その活動につき右物的施設を使用すべき必要性の大きいことは否定し得ないところではあるが、使用の必要性が大きいことの故に、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために当然に使用し得る権原を有し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の使用を当然に受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない。したがつて、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有、管理する物的施設を使用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその使用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を所有、管理する使用者の権原を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当らないというべきである(昭和五四年一〇月三〇日最高裁第三小法廷判決参照)。
そこでこれを本件についてみるに、会社の川崎工場食堂は、同工場で働く従業員をして食事の際使用させることを目的に会社が設置した施設であることは明らかであるから、同工場の従業員は労働組合員であると否とに拘らず食事の際右食堂を自由に使用することは予め会社により許容されているといわなければならない。しかしながら従業員の食堂使用はあくまで右施設本来の目的である食事のための使用であつて、右目的以外の使用、例えば組合大会の会場として使用することは予め許容された範囲から逸脱するものであるから組合ないしは組合員が組合大会その他組合活動の場として工場内食堂を使用したいときは、予め右食堂の所有者であり且つ管理者である会社の許諾を得なければならないものといわなければならない。しかるに組合は、昭和四八年一一月、組合を結成した当初から組合活動のため会社施設を使用できるのは組合の権利であるとの考えに立ち、会社の許可を得ずに川崎工場食堂で集会を開き会社から警告を受けると会社に対し食堂使用許可の申入れはしたものの右の前提を変えず、会社が年四回程度の組合大会にのみ食堂使用を許すとの案を出してもこれを全く無視し、あまつさえ食堂使用問題を会社との協議の場に持ち出すこともせず会社の阻止を実力で排除して無許可で食堂を組合活動のため使用し続けてきたものであつて、かかる状況の下にあつては、会社が食堂使用の方法等について組合と協議が成立していないことを理由に組合からの食堂使用許可の申入れを拒否しても権利の濫用ということはできない。
もつとも組合は、前記認定のようにいわゆる企業内組合であり、組合員が会社の川崎工場と池上工場等に分かれ組合大会その他の組合活動には川崎工場内の食堂を使用することが種々の面で便宜であることは肯首できるけれども、それが故に組合が川崎工場内食堂を当然に使用できる権利を取得するものでないことは前記説示のとおりであり、また会社としても就労時間外に従業員をして食堂を食事の目的以外に使用させることによつて事業遂行上格別の支障が生ずるとは云えず、現に会社は従業員がつくつている卓球部、写真部等にそのサークル活動として川崎工場内食堂の使用を許していることは会社において自認するところであるが、かかる事情が存するからといつて、会社は組合に対し組合活動のために右食堂を使用させなければならない義務を負うものと解することはできない。
その他会社の組合に対する本件食堂使用の拒否が権利濫用であると認めるに足りる証拠はない。
四 してみれば、会社による組合からの食堂使用許可申入れの拒否が権利濫用であると認められない以上組合の食堂使用許可要求の拒絶が組合に対する支配介入―不当労働行為―に該らないことは明らかであり、会社が組合による会社食堂の無許可使用に対し組合員の入構を阻止し中止命令を発し、無断使用を強行した組合もしくは組合責任者に対し再発防止のためその責任追及及び処分の警告を発することは、職場秩序を維持するために必要な施設所有権、管理権の正当な行使であつて何らの不当性もなく勿論不当労働行為にも該当しないことは多言を要しないところであり、また会社が、従業員の鬼柳香月が昭和五四年四月二七日の就労時間外に会社の制止を無視して川崎工場構内に立ち入り、同食堂で行われていた組合による無許可集会に参加したことに対し服務規律違反である旨警告したことも正当な行為であつて組合に対し何らの不当労働行為を構成するものではない。
以上の次第で、被告が本件を不当労働行為と認定して原告に対し救済命令を発したことは違法というべきであるから本件命令主文第一、二項は取消しを免れない。
五 よつて原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(別紙)
命令書
(神奈川地労委昭和五五年(不)第四号 昭和五六年七月二七日 命令)
申立人 全日本電機機器労働組合連合会池上通信機労働組合
被申立人 池上通信機株式会社
主文
一 被申立人池上通信機株式会社は、申立人全日本電機機器労働組合連合会池上通信機労働組合から、組合集会を開催するために、池上通信機株式会社川崎工場内従業員食堂使用許可の申請があつた時は、業務上著しい支障がある等合理的な理由のない限りこれを拒否してはならない。この組合集会の開催に際し被申立人池上通信機株式会社は、責任追及又は処分する旨の警告を発したり、社内放送施設を利用して集会中止命令、高周波音を流したり、組合員の入構を拒否する等の集会の開催を妨害する行為をしてはならない。
二 被申立人池上通信機株式会社は、本命令受領後一週間以内に下記文書を縦一、五メートル横三メートルの白板に墨書し、これを被申立人池上通信機株式会社川崎工場及び池上工場正門附近の従業員の見易い場所に一週間掲示しなければならない。
記
昭和 年 月 日
池上通信機労働組合
執行委員長 中岡健司殿
池上通信機株式会社
代表取締役 坂本克郎
貴組合が会社川崎工場内従業員食堂において組合の集会を開催する際に集会を開催すれば責任追及、処分の用意がある旨を警告したり、集会中に社内放送によつて集会中止命令を放送したり、集会に参加しようとする組合員の入構を拒否したりする方法で集会の開催を妨害し、また貴組合の副執行委員長鬼柳香月氏に対し、昭和五四年五月七日付け警告書をもつて、同氏が同年四月二七日の川崎工場内従業員食堂における組合集会に参加したことが服務規律違反であるから、今後社員としての規則を遵守し、規律を乱すことがないよう警告する旨の通知をしたことは、このたび神奈川県地方労働委員会によつて貴組合に対する支配介入行為として不当労働行為であると認定されました。よつて会社は今後はかかることのないよう十分注意いたします。
三 申立人全日本電機機器労働組合連合会池上通信機労働組合のその余の申立てを棄却する。
第一認定した事実
一 当事者
(1) 被申立人池上通信機株式会社(以下「会社」という)は、放送用機器の製造販売を業とし、肩書地に本社及び工場を有するほか、川崎、藤沢、水戸、宇都宮の四工場を有し、従業員約一、二〇〇名を擁している。
(2) 申立人全日本電機機器労働組合連合会池上通信機労働組合(以下「組合」という)は、昭和四八年一一月九日組合員数約三七〇名をもつて結成され、同年一一月二二日全日本電機機器労働組合連合会に加入し、現在の組合員数は約八五名である。
二 食堂使用等をめぐる交渉経過について
(1) 昭和四八年一一月一〇日の状況
同日、申立人組合執行委員長沢口進ほか三名は、当時本社のあつた川崎工場において、会社側千葉総務部長ほか二名に対し、組合結成の通告をした。また、組合は「会社は労働組合に組合事務所、掲示板を設置貸与し、組合活動や宣伝の自由を保障すること」等一七項目にわたる要求書を提出した。会社側は、斉藤公正社長及び坂本克郎専務の海外出張中による代表者の不在を理由に、上記要求書の受領を拒んだが、組合が更に受領を要求したため、結局千葉総務部長が預かることになつた。
(2) 同四八年一一月一一日の状況
同日、組合は、午後二時から三時頃にかけて、川崎工場内従業員食堂で妨害を受けることなく約三〇名が集合して集会を開いた。一方、会社は、一〇日ないし一一日に社長と専務が帰国したことから一一月一一日午後一時頃鶴見の総持寺に社長をはじめ部課長係長等職制約七〇名を集め、各工場における組合員の把握、労務担当者を決定するなどの対応策をとつた。
(3) 同四八年一一月一二日の状況
同日、組合は集会を開くため、午後五時一五分過ぎ池上工場食堂附近に集合したが、食堂入口附近において井上常務、古賀工場長らの職制がピケをはつたため、同入口附近で、組合は同月一〇日に千葉総務部長との間に食堂の暫定的使用を妨害しないとの約定が成立した旨を主張し、一方、会社は、食堂使用の事前の届出がないことを理由に食堂使用を許可しない旨を主張し、両者間での押し合い等のこぜりあいがあつた。この衝突後同日、組合会社間で交渉がもたれ、その際組合は
<1> 事務所施設として食堂または会議室の貸与
<2> 団体交渉開催の申入れ
<3> 本日の混乱に関し、就業規則による処分はしない
<4> 会社側は不当労働行為をしない
との四項目の要求をしたが、<2>については開催に関する合意が成立し、<1>については事前届出をせよとの会社の要求があり、その旨組合も承諾し、その余については明確な合意は成立せず、この交渉は、翌一三日午前二時四五分頃終了した。
(4) その後の団体交渉等の経過
同四八年一一月一二日以降の主な団体交渉等の経過は、以下のとおりである。
日付
交渉形態
場所
主たる交渉内容
四八年一一月二四日
顔合せ
本社ロビー
電機労連事務局長、組合三役社長以下四名との顔合わせ
一一・二六~二七
事務折衝
〃
三六協定打合せ(決裂)
一二・四
第一回団体交渉
商工会議所
年末一時金交渉
一二・一三
第二回 〃
〃
年末一時金妥結
一二・二七
事務折衝
霞山会館
労働協約、組合事務所、掲示板、構内活動の自由
四八・一一・一〇付け要求書第1項について
四九年一月二三日
第三回団体交渉
ホテルパシフイツク
四八・一二・二七事務折衝事項について
二・七
第四回 〃
朗峯会館
四八・一一・一〇付け要求書第1項(1)(3)は継続交渉(2)は事務折衝で詰めること
二・一三
事務折衝
朗峯会館
掲示板貸与
二・二八
〃
観月
〃
三・五
第五回団体交渉
〃
掲示板貸与の合意、その他合意に達せず
三・一一
事務折衝
〃
掲示板使用手続、食堂等構内施設利用について継続折衝
四九年三・一三日
事務折衝
食堂使用について
協定不存在を理由として会社は使用拒否、ただし代替場所の提供について双方合意
組合は、春闘活動の場として、昭和四九年三月一一日、<1>ハンドマイクは持ちこまない、<2>人数を守衛所に伝える、<3>使用時の組合責任者を明確にする等の条件の下に、食堂使用許可願を提出していたが、同年三月一三日の事務折衝時に会社は組合との食堂使用に関する協定の不存在と、春闘期間中の集会場所として、三月一五日徳持会館、同月一九日産業文化会館、同月二〇日徳持会館、同月二二日貝塚会館、同月二三日産業文化会館を夫々会社が使用料を負担した上で食堂に代えて提供することを理由にこれを許可しなかつた。その後、更に組合は団体交渉を要求したが会社はこれも拒絶し、そのまま春闘に突入した。四九年春闘時代には食堂の使用をめぐり度々組合と会社側の衝突がみられたが、同年四月五日には川崎工場の食堂使用を要求する組合とこれを阻止するため食堂入口でピケを張る伊藤工場長、矢野部長、笹岡課長らとこぜりあいとなり、組合は屋上へでる際、この三名を階段に転倒させ全治一〇日間の傷害を負わせた。
三 食堂使用許可願の提出状況とそれに対する会社の対応
昭和四八年一一月一二日の井上常務の事前届出の要求以来、組合は、食堂使用の必要がある度に事前に就業時間外における使用許可願を提出しているが、会社は昭和四八年一一月一二日付け社長名の申入書をもつて「組合活動の自由とは労働契約上の就業時間外及び会社の施設を使用しない場合に自由ということであつて、たとえ正当な理由によるものであつても就業時間中は勿論、就業時間外であつても会社施設構内の使用はできません」旨を回答しており、その後会社は昭和四九年三月一三日の事務折衝時に年四回程度の使用なら認める旨の発言をしてはいるが、会社としての基本的な態度はその後も変化せず、前記組合の使用許可願に対しては具体的な業務上の障害理由も付すことなく、また、付す必要もないとして、「当初の方針どおり一切貸す意思がない」旨の回答をして今日に至つている。
四 現実の食堂使用の状況
以上のような使用許可願の提出、不許可という状況下で、組合は、昭和四八年九回、昭和四九年四四回、同五〇年二七回、同五一年一一回の食堂集会を、会社の制止をふりきる形で開催しているが、その都度スピーカーを通じての会社側の中止命令、それに従わない場合の責任追及、処分の警告、高周波音、ピケ等による妨害によつて円滑な食堂集会は開催できない状態であつた。その後現在に至るまで会社の施錠関係、格子等の物理的強化、組合員の減少等から組合も他の場所を使用するなど食堂集会の回数は漸減し今日に至つている。
なお、会社は、社員親睦会、写真部、野球部、卓球部等が食堂を使用することに対してはこれを容認していた。
五 昭和五四年春闘時の食堂集会状況
(1) 昭和五四年春闘は、同年三月二八日付け組合の川崎工場食堂使用許可願、同日付けの会社の不許可回答に始まり、同日午後五時三〇分から同工場内で全川崎労働組合協議会清水事務局次長の講演会を開催しようとする組合と、施設管理権を楯にこれを阻止しようとする会社が対立し、双方合計一〇〇名以上の人数で守衛所前附近でこぜりあいがあり、午後七時頃中岡委員長と鶴岡総務部長との話し合いで、タイムレコーダー前で集会を開く旨の合意がなされ、組合は同日午後八時頃まで集会を開いた。
(2) 同年四月一一日、組合は池上工場と川崎工場に勤務する組合員の合同集会のため川崎工場食堂使用許可願を提出したが、同日付けで会社はこれを拒否し、アコーデイオンドア、鉄製ドア等を固めたため、会社側と組合側とこぜりあいになり、ドアの開閉機能に損傷が加えられ、組合は前回と同様タイムレコーダー前で集会を開き解散した。
(3) 同月一二日組合は電機労連機関誌記者木村昭義を囲んでの座談会を午後五時三〇分から川崎工場食堂で開催しようとしたが、会社に入構を拒否され、構内での座談会を開けなかつた。
(4) 同月一九日組合の川崎工場食堂使用許可願、会社の不許可という状況下で、会社側はドアを完全に閉ざし、同日の合同集会は、川崎工場内にいる組合員は構内で、他の組合員は工場外で、という状態に分離された。組合は、会社との話し合いがついたため、午後九時頃ようやくタイムレコーダー前で集会を開催することができた。
(5) 同月二七日は前回同様の使用許可願、不許可の状況下での合同集会に際しても会社はアコーデイオンドア等を完全に閉めたので、通用口から正面玄関にまわつた池上工場組合員との間にこぜりあいがあり、結局、組合は午後一一時過ぎ合同集会を断念した。
(6) 同年五月九日、会社の食堂使用不許可通告の後、組合は午後五時半過ぎから合同集会を川崎工場食堂で開催しようとしたが、前回と同様会社側に阻まれ、結局実質的な合同集会は開かれなかつた。また、食堂内にいた組合員に対しても会社側は二〇分おきくらいにスピーカーにより集会中止命令をだして集会を妨害した。
六 鬼柳香月に対する警告について
(1) 昭和五四年四月二七日の状況
鬼柳香月は昭和四八年四月被申立人会社に入社し、同四九年一月に申立人組合に加入し、同五一年五二年に執行委員を経たのち、五四年当時は副執行委員長であつた。
同五四年四月二七日、鬼柳は同日午後三時から開催される予定の電機労連神奈川地協第九回幹事会議に出席するため、午後〇時四五分から同五時一五分までのいわゆる半日有給休暇届を提出し、同幹事会に出席後、同日の組合集会に参加するため午後五時五分頃川崎工場に引き返してきたところ、川崎工場入口附近で堀越警備員から繰業時間終了後の入構を制止され、更に附近を通りかかつた松沢総務課長からも「君は半日休暇をとつているんだろう会社内へ許可なく入構しては困る」旨の注意を受けたが、鬼柳は両者の制止を無視し、入構後ロツカー室に行つて着替えた後、食堂内に集合していた他の組合員に合流して同日午後一一時三〇分頃まで構内に残留した。
(2) その後の処分
(1)の行為に対し、五四年五月七日付けをもつて会社から鬼柳に対して「服務規律違反であるから、今後社員としての規則を遵守し、規律を乱すことのないよう警告する。」旨の警告書がだされている。
なお、就業規則には業務以外の理由で構内に立入つてはならない旨の規定が、またその付則には警告書が五枚以上発せられた者に対しては懲戒(戒告、出勤停止、停職、降職、減俸、解雇)を科せられる旨の規定がある。
また、同年三月二八日沢口執行委員が有給休暇届後職制の制止にもかかわらず組合集会に参加し、五三年春闘時にも、前副執行委員長であつた柴田吉博が有給休暇届後電機労連の委員会に出席し、その後川崎工場構内での組合集会に参加したことがあつたが、いずれも警告書が発付された事実はない。
第二判断及び法律上の根拠
一 当事者の主張
上記認定事実につき、組合及び会社はそれぞれ以下のように主張する。
(1) 食堂使用について
組合は、企業別組織を原則とする我国の労働組合にとつては、企業内における組合活動は組合存立のための前提条件であり、職場を離れては活動の実効性はあがらない。
従つて組合は、一定の範囲の企業施設の利用権を有するものであり、その限度において会社の施設管理権は制約をうけるものである。
しかも、会社は、昭和四八年一一月一〇日の組合結成通告時の交渉において、組合の食堂等使用につき妨害はしないと約束した事実があり、かつ社員親睦会、写真部、野球部、卓球部等のサークルが食堂を利用することについては、従来これを認めてきていた。
しかるに、会社は組合に対し、「たとえ正当な理由によるものであつても、就業時間中は勿論、就業時間外でも構内施設の利用は許さない」とその利用を全く認めないのみならず、過去数一〇回に亘る組合の食堂利用に際しても、その都度スピーカーを通じての中止命令、それに従わない場合の責任追及、処分の警告、高周波音、ピケ等による妨害を行つてきた。
かかる会社の行為は、組合の運営に支配介入する不当労働行為であると主張し、組合の川崎工場食堂における集会に際し、上記妨害行為をしてはならない旨の救済命令を求める。
これに対し会社は、昭和四八年一一月一〇日の組合結成通告時の交渉において、組合の食堂等の施設利用を妨害しないと約束した事実はないと主張するとともに、いかなる者も所有者の許諾なく他人所有の施設を利用し得るものではなく、施設管理権が会社にある以上、組合、会社間で施設利用に関する合意のない限り、食堂を組合に利用させるべき法律上の義務はないとし、また、今後も一切利用させる意思はないと反論する。
(2) 鬼柳香月に対する警告について
組合は、昭和五四年四月二七日午後五時五分頃副執行委員長であつた鬼柳が堀越警備員、松沢総務課長の口頭による制止を無視して入構した行為は、同日行われる組合集会参加のための正当な組合活動の一環であり、会社が上記行為につき鬼柳に対し、後日警告書を発付したことは不当労働行為に該ると主張する。
これに対し会社は、就業規則の業務目的以外の入構禁止規定及び松沢課長等の制止を無視し、強引に入構するという態様の悪質さから、鬼柳に対し警告書を発付したことは当然であると反論する。
よつて、以下判断する。
二 判断
(1) 食堂使用について
ア まず本件食堂使用に関する交渉経過をみると、組合は昭和四八年一一月一〇日の組合結成通告時に、会社が組合の食堂等の利用につき妨害はしないと約束し、その使用を黙認した旨主張し、会社はその事実を否定するが、当時斉藤社長及び坂本専務の二人が海外出張中であり、突然の組合結成という会社にとつて決して軽視できない事態発生のため、一総務部長である千葉総務部長がそのような約束をしたとまで認定することはできない。
しかし、昭和四八年一一月一二日の会社の食堂使用許可願提出の要求以来、組合は今日に至るまで一貫して就業時間外の食堂使用の度に、事前に許可願を提出してきており、認定した事実二(4)のとおり、昭和四九年三月一一日の事務折衝時には、使用時の責任者を明確にする等三つの具体的条件を呈示した上で食堂使用許可を求めたが、会社は組合活動は就業時間外に、しかも会社の施設外で行うべきものであるとの認識の下に、代替施設の提供、年四回程度の食堂使用なら認めるという形式的な譲歩はしたものの、一貫して食堂を含む会社施設の組合利用を認めない態度をとり続け、施設利用に関する合意のないことを理由に、組合の許可願をすべて却下してきている。
なお、組合側にも食堂利用の際に昭和四九年四月五日伊藤工場長ほか二名に対し傷害を負わせたり、昭和五四年の春闘時には川崎工場のドアに損傷を与える等若干行きすぎた行為があつたことが認められるが、これも会社が食堂使用をかたくなに拒み、職制を動員して物理的圧力を加えたことに起因することが大きく、会社が施設利用を全面的に拒否することを正当化するほどのものではない。
イ 会社はその施設に対する管理権を有するものであるから、組合は当然には会社の施設を使用する権利を有するものではない。それ故、会社施設を組合が利用するについては会社の許認可を要するものと考える。
しかし、企業内組合組織がその正当な組合活動の場を企業内施設に求めることも無理からぬことなので本件で会社が主張するように、施設管理権が会社にあることのみを理由として、会社にとつて格別の支障がないにもかかわらず、就業時間内外を問わず、組合活動のための施設の利用を一切禁じ得ることは到底考えることはできない。
ウ そこで、本件食堂使用に関しての両当事者の実質的利害を衡量してみるに、組合としては、第一に、企業内組合として結成される我国労働組合において、団体交渉等を通じて組合の目的を達成するためには、企業という場における活動が重要な役割を果すことは当然である。
第二に、本件組合においては川崎、池上両工場に組合員が分散しており、組合本拠地たる川崎工場に集合する必要がある。第三に、就業時間外で、かつ組合の都合のよい日に会社施設以外の場所を確保することはきわめて困難である。
一方会社としては、就業時間外であれば、事業の遂行に格別の支障はない。また、施設の利用熊様も当事者間の合意によつて、施設の本来の目的を損わず十分に対処し得るし、現に社員親睦会、写真部、野球部、卓球部等のサークルが食堂を使用することは従来これを認めていた。
このようにみてくれば、業務上の支障がない限り、組合が食堂を使用する必要性は大きく、また会社にとつて、同じ従業員組織である組合以外のサークル活動のための利用と組合の利用とを差別する格段の理由ないし事情もないことが認められる。
エ それにもかかわらず、認定した事実三のとおり、会社は組合が設立された昭和四八年一一月一〇日からわずか二日後の同月一二日に当時の斉藤社長名の申入書をもつて「組合活動の自由とは労働契約上の就業時間外及び会社の施設を使用しない場合に自由ということであつて、たとえ正当な理由によるものであつても、就業時間中は勿論就業時間外であつても、会社施設構内の使用はできません」旨の回答をし、その後組合との事務折衝時に年四回程度の使用は認めるとの譲歩は一時あつたものの、会社としての基本的態度は今日に至るまで終始一貫して変らず、組合の使用許可願に対しても具体的な業務上の障害理由等を付すことなく、また付す必要もないとして組合の食堂利用を全く認めないのは、組合の存在を嫌悪し、施設管理権の名の下に意図的になされた組合に対する支配介入行為であり、労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為である。
(2) 鬼柳香月に対する警告について
昭和五四年四月二七日午後五時五分頃副執行委員長であつた鬼柳が組合集会参加のため川崎工場に入構しようとした行為は正当な組合活動の一環であり、その入構態様も比較的平穏であつた。
その上、認定した事実六の(2)で明らかなとおり、同年三月二八日沢口執行委員が鬼柳同様有給休暇届後、職制の制止にかかわらず組合集会に参加し、五三年春闘時にも前副執行委員長であつた柴田吉博が有給休暇届後電機労連の委員会に出席し、その後組合集会に参加したことがあつたが、いずれも警告書を発付した事実はない。
それにもかかわらず、就業規則によれば解雇にまで発展しかねない警告書を発付したことは、鬼柳に対する不利益取扱であるとともに、正当な組合活動を抑制するものであつて、組合に対する支配介入行為といわざるを得ず、労働組合法第七条第一号、第三号に該当する不当労働行為である。
よつて、当委員会は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条の規定を適用して主文のとおり命令する。